■詩と思想新人賞叢書2 詩集 『植星鉢(ぷらねたぷらんた)』A5判98ページ
                        林 木林(はやし・きりん)/著

詩集より一篇

夕陽の中で


ゆうやけのなかをあるくとき
あなたとすれちがえたならいい
わたしはどんなにまっかなかおをしていようとも
ゆうやけにつつまれてわからない

ゆうやけのいろに
まちもでんせんもからすもみんな
そまってしまって
どんなにてれてはずかしがっても
わたしはあなたにちゃんとあいさつしよう

ゆうやけのさかをのぼるとき
しんごうきのあかがわたしのゆうひ
――――――――――――――――――――――――――――――――
わたしがゆうやけのみちをあるくとき
わたしのあかいくつは
せかいの赤血球である

わたしがゆうやけのみちをまがるとき
わたしのしろいサンダルは
せかいの白血球である

わたしのそばを
くるまのテールライトとヘッドライトがすれちがうとき
赤血球と白血球がすれちがう

わたしたちはながれてゆく
このあかいゆうやけのなかを
あしたのじぶんにむかってもくもくと

わたしのきおくのなかへとあるいている
あしたのむねのなかにのこる
わたしのむねのまんなかを
あるいは
さんねんごのわたしのこゆびのさきへつづく
ちいさなこうさてんを
ちいさくかよわくおれまがりながら
しんぞうのようなへやへかえる
あたらしくめざめては
またおくりだされなければならない
わたしのきおくのなかを
わたしがいきているかぎりめぐりつづけるために
――――――――――――――――――――――――――――――――
みらいのわたしがちゃんと
きょうのわたしのことをおもいだしてくれるために
みらいのわたしがつぎからは
おなじみちにまよわないために

わたしはゆうやけのなかをながれてゆく
あかいショルダーバッグは赤血球
しろいスカーフは白血球
このさかみちは
せかいの毛細血管
さかをのぼりきったところから
ゆうやけのうみをのぞむとき
せかいじゅうに血が通っているのがみえる
――――――――――――――――――――――――――――――――

ねじめ正一 栞より


林木林という名前を見たとき
私の家の近くにある林木材を思い出した。
林木材には大きな庭に
さまざまな種類の材木が
置かれていて、
林木材の前を通るたびに
材木のいい匂いがしてきて
ビタミン剤を
飲むよりも
百倍元気が出てくる。
私がここまでおおきな病気を
しなかったのも
林木材のおかげだと思っていて
私の体の中に材木の匂いが
もくもく充満して
吐く息だって材木臭いし
考えることも材木臭い。
ところで林木林という人は
林木材の親戚なのか
兄弟なのかはよく知らないが
第4回詩のボクシング全国大会のDVDを
見ているうちに
林木林もビタミン剤であり
元気が出てくる
――――――――――――――――――――――――――――――――

それも我々おじさんの
言葉の過剰な元気さではなく
体力が見えてこない元気さだ。
私は林木林の体力なるものを
追いつづけたが
とうとう見つけられなかった。
体力とは日常であり
体力が見えると
日常が見えすぎると
男も女もセクシーではなくなる。
体力を言葉ですっぽり包み込んで
林木林は
最後までリングの上で立っていた
体力の尻尾さえも見せなかった。
それは見事であった。
それは林木林の詩集『植星鉢(ぷらねたぷらんた)』も
同じである。
体力をすべて打ち消して
言葉をぎゅうぎゅう押し込まず
自然と交感して
我々の体内にするっと入り込み
自然とグルになって
自然を味方につけて
攪乱してくる
その攪乱ぶりに
我々の体力も降参するのである。
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あとがき

 この詩集は二〇〇六年度の第十五回「詩と思想新人賞」の副賞として出版されたものです。思いがけないこの受賞によって、私にもようやく初めての詩集ができました。
 収録されている作品を書いた年代はさまざまです。一九九〇年代のものから近年のものまで、二十編の中に幅広い年代の作品が収められています。
 私は子供の頃に遊びで詩を書き始め、その魅力にとりつかれて一生懸命に投稿をするようになり、ときどき賞を戴いたりするようになりました。挫折しては励まされ、ふと気付けばずいぶん詩が私のそばにいてくれたことに改めて気付かされます。
 そんな詩に感謝の気持ちを込めながら、これからも書き続けたいと思います。
 私の拙い詩が一人でも多くの方の心に届くことを祈るばかりです。
 出版に際してお世話になりました高木祐子社長、一色真理編集長、栞を戴きましたねじめ正一様、装幀の木下芽映様に心よりお礼申し上げます。

 二〇〇七年 実りの秋
 林 木林
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IISBN978−4−8120−1639−8 C0392 定価2,100円(5%税込)
林 木林(はやし・きりん)
山口県生まれ。
「うにまる」というペンネームで詩の投稿を始め、
ユリイカ新鋭詩人、抒情文芸最優秀賞、
サンリオ詩とメルヘン特別賞などを受賞。
2004年 詩のボクシング全国大会優勝。
2005年 防府市市民栄光賞受賞。
2006年 詩と思想新人賞受賞。
本書は第一詩集。
絵本に『ゆうひのおうち』(鈴木出版)などがある。
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