■『詩学入門』

                        中村不二夫・川中子義勝/編

まえがき

 日本詩人クラブは、詩人や詩の研究者、音楽家などが集う詩的文化サロンとして一九五〇年五月に設立されました。それ以降、現在まで欠かさず続いているのが、各界で活躍する人たちを招いての月例の講演会、研究会です。本著は、近年に行われた研究会の講演記録を一冊にまとめたものです。すでに内容は日本詩人クラブの機関誌『詩界』に掲載されておりますが、ここに装いも新たに一般読者に向け『詩学入門』として世に送り出すことになりました。
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詩は読むにしろ、書くにしろ、「真・善・美」を尊ぶ素朴な人間感情が核になっていなければなりません。すなわち大切なのは書き手、読み手を問わず互いの独善を排し、そこに在るポエジーを共有しようとする無垢の心です。本著は一般の入門書にありがちな、読者にある種の文学的な予備知識を要求することは一切ありません。能や俳句など日本の古典から、ヴァレリー、シュルレアリスムなどの海外詩の受容、あるいは世界のマイノリティの詩の紹介、さらに日本の女性詩の系譜が自由な発想で縦横無尽に語り尽くされています。
ここにわれわれは、 平易 にして 深遠、 前衛 にして 不易 の内容を持った、これまでにはないユニークな『詩学入門』を世に送り出すことができたと自負しています。すべてが閉塞したこの時代状況にあって、本著が真の詩の愛好者に読まれることを願ってやみません。

  二〇〇八年一月 編者 中村不二夫
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 目   次

第一部 二十一世紀 詩の可能性

マイノリティの詩
伊東静雄 ―― 詩法と課題
グローバリズムと現代詩
パネルディスカッション
米澤順子・慶光院芙沙子・滝口雅子をめぐって
衰微する言葉と生命感
詩人・島崎藤村 ―― 春の行方

第二部 根源への遡行・詩生成の場へ

シュルレアリスムと詩学
能の詩学
フィンチの嘴 ―― さすらいの遺伝子言語論








石原 武 講師
溝口 章 講師
筧 槇二 講師

パネリスト 北岡淳子・白井知子・原田道子
塩原経央 講師
橋浦洋志 講師



松浦寿輝 講師
松岡心平 講師
森 常治  講師
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李賀の詩を読みながら、現代の詩の方向を探る
意味創発の機制
ポール・ヴァレリーの詩の源泉
芭蕉と現代詩の間((あわい))
詩界フォーラム 
日本詩人クラブの存在理由 ―― 創立五十周年の記録

第三部 抒情・造形・批評 ―― 詩的現実を目指して

抒情、あるいは存在の震えについて
先達詩人に学ぶ
私((わたくし))離れの詩とことば 
詩と音楽の関わりについて ―― バッハ・カンタータ第一〇六番の示唆するもの
                          
エルヴィス 詩 場所((トポス))     


        講演一覧




比留間一成 講師
藤井貞和 講師
山田 直 講師
新延 拳・鳥居真里子 講師

中村不二夫 



小林康夫 講師
西岡光秋 講師
原 子朗 講師

川中子義勝 講演
中上哲夫・水野るり子 講師

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あとがき

本書を読み通して、ようやくあとがきだけ残った、とこの頁を開いている方がおられるかも知れません。それとも、本書をまず手に取り、まえがきやあとがきから内容を推しはかり、読むかどうかを決めようとしている方もおられることと思います。そのような方には、ひいきの講演者や気に入った表題、あるいは関心のある内容や主題、どこからでも好きなところからお読みくださいと申しあげたいと思います。
実際に、ひとつひとつのお話はそれぞれ独立して、その場その時かぎりの雰囲気のもとに語られました。その様子を、会場に来られない遠方の方にもお伝えしたいと願い、そのために毎回のテープ録音から起こされた原稿が、本書のもとになっています。
一連のお話がなされた「詩論研究会」や、その原稿を掲載した雑誌『詩界』について、また、それらを主催する「日本詩人クラブ」の活動や来歴については、編者の一人中村不二夫氏が述べていますので、そちらをご覧ください(「日本詩人クラブの存在理由」)。
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雑誌『詩界』復刊後、初代の編集長であった中村不二夫氏の研究会(二〇〇一〜二〇〇二、本書の第一章に相当)を引き継いで、川中子義勝が二代目編集長として二〇〇三年から二〇〇六年まで研究会を担当しました(本書の第二章、第三章に収めました)。
お話はひとつひとつそれぞれ独立したものと申しあげましたが、本書の各章表題に示されますように、ある程度大きな展望のもとで研究会は計画されました。二年ごとにテーマを設定し、テーマに沿った内容の充実と講演者の選択に努めましたが、講師を依頼する際には詩人クラブの外にも相応しい方を求めました。
たとえば、第二期(二〇〇三〜二〇〇四)には、「根源への遡行・詩生成の場へ」と題して、詩はどんな場から生まれてくるか、日本の詩、外国の詩の生成のダイナミズムを窺える所へと導いてくださいと、講師にお願いしました。現代詩というすでに形の定まりつつある枠をこえて、むしろ詩の根源に遡る形で詩とは何かを追求していただきました。言語芸術としての詩・現代詩の成立に先立つ次元へと遡ることによって、ことばの営みの源から詩成立の可能性を探ったと申せましょう。

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つづく第三期、「抒情・造形・批評 ―― 詩的現実を目指して」(二〇〇五〜二〇〇六)では、先の二年間を受けて、さらに、具体的な作品創作の場で問題になることとは何かを言語化することに焦点を定めました。しかし、その際にも詩作というテーマ一辺倒ではなく、創作現場で意識化されることは何かを、詩的現実の内外から追求していただきました。造形芸術や音楽という、言葉を越えたジャンルからの反省点を加えてくださる方をも講師にお選びしています。
そのように、三期にわたるテーマ設定は、ばらばらな発想ではなく内的に関連しています。新時代の開始に臨んで詩の新たな可能性を問うとともに、詩の起源や生成の現場を尋ねつつ、詩をひろく言葉の営みの内に位置づけることを目指していますので、(それぞれの立場や関心から)関連づけてお読みになることも可能です。
詩を読むことが大好きな方、でも違った読み方もあるかなとお考えの方。詩を書いてみたいが、どうしたらその一行が書けるのかと問いかけておられる方。あるいは、詩作を日頃の営みとされ、研鑽を積んでおられる方。もちろん、少しだけ詩の世界を覗いてみたいとご希望の方も大歓迎。それぞれの心に、この書物の言葉が相応しい仕方で辿り着き、深く受けとめられることを願っています。
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任を終えて振り返ると、毎回、良い講師を得ることができたと実感します。それぞれの講演者やパネリストに、ここで心からの感謝を申しあげたいと思います。
一方で、研究会の遂行や雑誌の刊行は、沢山の方々の支えがあって始めて可能となることでした。時にコーディネイトを担ってくれた方々がいます(研究会一覧をご覧ください)。とりわけ研究会事務局の方々は、開催当日の受付の他、研究会後の厖大な録音を丁寧に原稿に起こしてくれました。そのような功労者として、中村洋子、小沢千恵、村尾イミ子、という方々の名をあげて、一言感謝を申し述べます。原稿は編集長が再度録音と聞き比べ、手を入れた後に、講演者にも目を通していただき、必要な修正を施しています。
講演集として原稿を一書にまとめるに際して、雑誌掲載時のテキストデータを快くお譲りくださった鈴切幸子様と待望社のご寛容は有りがたいことでした。また、本書の出版をお引き受けくださり、様々な力添えをいただいた土曜美術社出版販売の高木祐子社主にも感謝を申しあげます。

 二〇〇七年十二月 編者 川中子義勝

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IISBN978−4−8120−1655−8 C0095 定価3,990円(5%税込)

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