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現代詩の新鋭 4 詩集 「恩寵」

野田 順子/著

行くあてのない水を抱えている

限りなく絶望に近いときほど、青空の下で人は希望を口にする。
幼い頃にかけられた花のような呪いを解いて、いつかどこかへ旅立てるのだろうか。この苛立つ水を抱えたまま・・・・・・


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大きな窓を持つ者へ

はじめは 自分のからだの奥のざわめきと
区別がつなかいほどの
かすかな合図だったとしても
もしも君が
広い空が見える窓を持つなら
嵐がどこからやってきて
どこに去って行くのかを
しっかり見届けてほしい

低く垂れ込めた雲の魂と君とのあいだで
わざわざ風に逆らって
飛んでいこうとしていた一羽の黒い鳥が
いつのまにかいなくなり
雨粒が窓ガラスを叩き始めたら
BGMは止めた方がいい
この嵐が君にメッセージをもたらすという
確信がもてなくても
 今 が特別なひとときであることに
かわりはないのだから

視界の一部が だんだん夜に似てきて
きらびやかな点滅を示しても
それが街の華やかさだとは限らない

その証拠に窓を開けてみれば
(多少の雨に顔を打たれることは厭わずに)
森のにおいがするはずだ

だが 森の場所を思い出そうと
遠い記憶をたぐり寄せているうちに
たいていの嵐はあっけなく去り
人々の多くは 虹に幻惑されて
自分が森を思い出そうとしていたことすら
忘れてしまうだろう

だから 大きな窓を持つ者は
せめて嵐のゆくえを見届けねばならないのだ
いつか 誰かが
自分の森をさがすことになったときに
嵐を呼び出してやれるように
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IISBN978−4−8120−1697−8 C0392 定価1,890円(5%税込)

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